2010年07月06日

篆書について2(小篆風印篆)

前回、表記に迷うと書いた小篆風印篆ですが、この表現は比較的最近登場した表現です。小川瑞雲という方が始めたらしいです。最近といっても恐らく昭和五十年くらいからですが、それまでは小篆風印篆のようにハッキリと強弱をつける表現は見られませんでした。



この表現方法は実用印にとってかなり画期的です。
印影を作るにあたって実用印の最大の問題点は丸い枠です。丸い枠だけでは上下左右が定まりませんので、字のバランスで安定させるのですが、曲線的で縦長、下部に空間のあくことが多い小篆は、丸い枠に入れるとどうにもならないことがあります。ですので、小篆風印篆の登場以前は、一般の注文のほとんどが印篆で、気が向いた時に小篆的な字を試みるといった仕事の仕方をしていたのではないかと想像します。しかし、四角い印篆を線質表現で小篆のように見せるこの表現なら、あまりバランスを気にせず小篆風にできるのです。

例えば「邦雄」さん。説文解字ではこういう字です。右から読んでください。



下部に空間が多いのが分かります。
「雄」の左下が枠に付かないので、このまま入れるのは難しい。
そこで四角くした印篆で字を入れます。



手で書くと、印篆といっても少し小篆ぽさが出てしまうので、あえてパソコンで印影を作りました。
この印影の縦画を細くして、少し丸みをつけ、起筆終筆をを斜めにするだけで・・・



小篆のような雰囲気になるのです。

本当は小篆風印篆といってももう少しやりようがあるのですが、このように簡単にというか安易に作ることも出来るのです。その意味で小篆風印篆はコンピューター彫刻機に向いているとも言えます。個人的な意見ですが、彫刻機の普及と小篆風印篆の広まり、説文解字の軽視はリンクしているように感じます。

最近の競技会を見ていても、説文解字など全く意識されない、より印篆的なものが評価を受けているように感じます。丸い枠の場合など、小篆が入れられないこともあるのですが、もう少し小篆的な字形を評価してもいいのではないかと思っています。
そこで以前「印影へのこだわり」で紹介した小篆風印篆が登場する以前の先人の印影を見てください。



真ん中の印が「邦雄」さんです。今の職人からは「遊びすぎ」「篆刻ならいいけど」なんて意見が聞こえてきそうです。
しかし、もう一度説文解字の字を見てください。



ほとんど小篆の字形をいじってないんです。少し配置を工夫しただけで、丸い枠にバランスよく小篆を収めているのです。

今は競技会を見ても小篆風印篆一色ですが、小篆そのもの、印篆そのもの、字形の美しさ面白さなど多様な価値観が認められて欲しいです。
最後は小篆の話になってしまいましたね。


posted by 上野雄一 at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | はんこの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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